「そもそもなぜ企業は税理士と顧問契約をするのか?」。もちろん何らかの「必要性」があるからだと思いますが、では一体どんな「必要性」が生じたのでしょうか?その結果、税理士に「何を求めて」いるのでしょうか?
この問いに対する答えが明確でないと、あなたにとって最適な税理士はなかなか見つからないかもしれません。
おなかが痛いのに眼科に行く人はいません。税理士も一緒で「100人の税理士がいれば100通りの強みや専門性」があります。法人税、所得税、会計、財務、経理、会計ソフト、税務調査、相続税、資金調達。会計事務所が取り扱う分野は多岐に渡ります。
ひたすら記帳代行と税務申告だけを行う税理士がいます。節税や税務調査に強い税理士もいます。一方、法人税は全く苦手、しかし相続税にはめっぽう強い税理士もいます。
ではその税理士が何を得意としているかを見極めるにはどうすればよいのでしょうか。その「生い立ち」をみればある程度予想できるかもしれません。
そもそも「税理士」という資格は、「税務署を退職した署員の再就職対策」として、戦後にできた制度です。意外かもしれませんが、難関と言われる「税理士試験」を合格した税理士は、実際に3割程度しかいません。
その税理士試験を合格して税理士になった場合、間違いなく「税法」は詳しいはずです。ただし、どの税目で合格したかは重要です。受験する税金の課目は選択制ですので、比較的簡単な「酒税」「事業税」「国税通則法」などあまり実用に関係ない科目で合格している人も大勢います。
税理士だからすべての税法(法人税、所得税、消費税、相続税など)に詳しいということはありません。
一方、税務署OBの税理士を悪く言うつもりは全くありませんが、そもそも「徴税」を任務としていた人物が、突然立場を変えて企業の節税の指南をするとは考えにくいことです。ただし、退職前に税務署長や副所長などの重要な役職にいた人は、退職後もそれなりの人脈による影響力を持っていることが想像できます。事実、ある会社の税務調査では、税務署OBの税理士に立ち会いを依頼したところ、交渉により指摘された税金が半額になったという都市伝説もあります。
税理士になる他の近道もあります。大学院で「税法」を専攻する方法です。「税法」を専攻するだけで税法科目が2科目免除されます。「会計」を専攻していれば「簿記論」「財務諸表論」の会計2科目が免除されます。失礼ながら日本の大学院がさほど実務的な税務を教えるとは思えませんし、大学院生がそれほど厳しく指導されるとも思えません。
また、公認会計士はかつて無条件で税理士登録することができました。そして公認会計士試験では税法はほとんど勉強することないので、試験に受かったばかりの公認会計士はあまり税法を知りません。ちなみに私は公認会計士ですが、開業後は必死で勉強しました。
その代り公認会計士は上場会社の監査を経験していますから、会社の経営や取引の仕組み、経理体制、内部で不正が起こることを防止する仕組みを作ることが得意です。 もちろん会計監査が公認会計士の本来の役割ですから、会計処理が適正かどうかを調べるのは得意です。
また、公認会計士試験には、会計学はもちろんのこと、税法や会社法、民法、経営学など会社運営に必要な知識を幅広く勉強するので「経営全般」に強みを発揮するのが特長かもしれません。
このように一言に「税理士」と言っても、その生い立ちは様々。知識、経験、専門分野も様々。契約を考えている税理士がどのような資格で税理士登録をしているかを見てみるのもとても重要です。
税理士選びの大原則。それは自分の会社のニーズに合った税理士を選ぶということ。会社のニーズはその会社が置かれた環境やステージ、業種によって全く異なります。また業績の伸び方や資金の潤沢さによってもニーズは異なります。
設立したばかりで売上1,000万円の会社と、創業20年の年商30億円の会社では、会計事務所に対するニーズは全く異なります。また経理社員の有無、その信頼性、人件費も影響します。
失礼を承知で言うならば、社長の会計や経理に対する理解度、どの程度数字に基づいた経営を実践しているかによっても必要となる会計事務所のサービスは変化します。
- 会計事務所(税理士)に対していったい何を望むのでしょうか?
- どのようなサービスを必要としているのでしょうか?
経理の代行なのか?税務申告書の作成なのか?決算書に基づく経営アドバイスなのか?資金調達のアドバイスなのか?節税なのか?税務調査対策なのか?
会社にとって必要なサービスを提供する会計事務所を選ぶのがまずは原則です。とはいえ自社ニーズがよくわからない、ということもあるはず。その際は実際に複数の税理士と会って話すこと。そして現在の悩みや課題を伝えてみること。その対応でニーズにあった税理士かどうかがすぐわかるはずです。
税理士、あるいは御社を担当する会計スタッフと社長の相性は本当に大切です。ひょっとしたらこれが会計事務所選びの中で一番重要なことかもしれません。
税理士や会計事務所のスタッフはただひたすらパソコンで作業しているわけではありません。基本的にはその時間の多くをお客様とのコミュニケーションに割いています。したがって専門知識や経験、正確性はもちろん大切なことですが、仕事をスムーズに行うためにも相性は重要です。
そもそも会計事務所と社長の関係がギクシャクしているとせっかくの専門知識も生かせません。
記帳代行だけ、決算申告書の作成だけなどスポットの仕事を依頼している場合はそれほどの影響はないのかもしれません。しかし社長が「もっと事業を拡大したい」、そして必ず直面する様々な課題も「一緒になって解決して欲しい」と望むのであれば、やはり相性は重要です。
では会計事務所(税理士)との相性はどのように確認すればよいのでしょうか?面談で1時間も話せば何となく見極めることができると思いますが、税理士の経歴や生い立ちを聞いてみるのも良いと思います。
恥を忍んで告白すると、会計事務所を開設して数年で急成長を遂げるも、経営判断を誤り、倒産寸前まで追い込まれたことがあります。
ストック型のビジネスモデルで「不況にも強い」といわれる会計事務所を経営していたにもかかわらず、です。事務所を維持するため、銀行やノンバンクからはお金を借り尽くし、ついにサラ金に借金を申し込むも断られた経験もあります。
だから様々な課題で悩んでいる社長の気持ちは痛いほどよく分かります。そして同じ経験を持つ仲間として社長も感じとって下さっているようです。
料金の「安い高い」だけで会計事務所を選ぶ。これは税理士選びに失敗する確率がもっとも高いケースです。
数年前、食品の産地や賞味期限の改ざんによる問題が世間を騒がせました。ニュース報道を見ていた方はみな同じ思いだったのではないでしょうか。やっぱり理由のない「格安」はあり得ない。相場価格と比較して大幅に安い場合は必ず「それなりの理由」があるものです。
会計事務所も営利団体です。もちろん事務所の理念実現のため、フロント商品として限定したサービスを格安で提供することはあります。しかし、経営を赤字にしてまで低価格サービスを提供することは絶対にありません。
会計事務所の最大の「原価」は人件費です。それ以外に大きなコストはありません。つまり、「誰が(いくらの給料のスタッフ、あるいは税理士)」、そのサービスを実施するために、「どれ位の時間を割くか」によって価格は決定されます。
例えば、顧問料が月額1万円の会計事務所もあれば、月額5万円あるいはそれ以上の会計事務所もあります。しかしそれを横並びで評価することはできません。
- どんなスキルの会計スタッフや税理士が、担当してくれるのか?
- 自分の会社のために何時間働いてくれるのか?
- 毎月訪問してくれるのか?業務は経理処理だけか?アドバイスはしてくれるのか?
- 頼もしいベテラン税理士がいつでも相談に応じてくれるのか。
- 相談は対面か?電話か?メールか?スカイプなのか?
- 相談の時間や回数に制限はあるのか?それとも無制限なのか?
「税務顧問」といってもそのサービス内容もサービスの提供方法も千差万別です。1万円には1万円の理由があり、5万円にはそれなりの理由があるはずです。まずは複数の税理士や会計事務所を比較して、明らかに相場と異なる場合、その理由をしっかりと確認するのがポイントです。
20~30代など若手の税理士が良いのか?はたまた経験豊富な40~50代の中堅・ベテラン税理士が良いのか?とても悩ましい問題です。若手にもベテランにもそれぞれメリット、デメリットがあるからです。
若手の税理士の最大のメリットは「元気がいい」こと。元気の良い人は勢いがあり、話しているだけで元気が湧いてきます。さらに開業して日が浅く、顧客数も少ないことから、ひとり一人のお客様にたくさんの時間を割くことができるのも大きなメリットです。年齢も近く気が合う確率も高いかもしれません。また新規顧客を獲得するために、割安な料金を提示することもあるでしょう。
デメリットは、何といっても経験面です。それが顕著に出るのが「税務調査」です。税法にはいわゆる「グレーゾーン」があります。そして「節税」を検討する際は、いかに「グレーゾーン」を活用するかがキモになること少なくありません。しかし「税務調査」によって「グレーゾーン」が「黒」とされるのか、それとも「白」として見なされるのか?これは長年の経験でしか体得できせん。
さらに場慣れしていないため、税務調査の現場で「怖気づく」税理士もいます。かつて私もそうでしたが、税務調査は「怖い」ものです。交渉に失敗すれば顧客を落胆させてしまう、しかしどのように交渉して良いのかがまるでわからない。無難な着地を模索した結果、税務署の言いなりになるのはある意味で仕方がないことです。
一方、中堅・ベテラン税理士のメリットは、何といってもその経験の豊富さにあります。様々なお客様の課題を実際に解決してきた経験や手腕は何物にも代えられません。
人間的にも成熟している方が多いようです。あらゆる分野の専門家と強いネットワークがあり、「あの先生に頼めば大抵のことは解決してくれる」、そんな頼もしい税理士は少なくありません。
しかしデメリットもあります。40~50代ならまだしも、60代以上ともなるとフットワークの悪さは否めません。クラウド会計や最新のITツールなど、最新のトレンドに疎いというデメリットもあります。実際にメールも満足に使えない税理士も存在します。報酬も比較的高い事務所が多いようです。既に安定した事務所経営に不足のない顧客を持っており、敢えて価格競争をする必要がないからです。
若手、ベテランどちらがお得、と言い切れないものの、私自身はアラフィフなので、やはり中堅・ベテランをお勧めしてしまいます。理由は会社を興した以上、成長を目指すのが自然だと思うからです。成長を目指す以上、様々な課題にぶち当たります。それは絶対そうなります。その時、自らの経験が多いほど、最適なアドバイスをすることができるからです。
いかがでしょうか。以上、「はじめての税理士選び」について述べてみました。
ここで再度「税理士選びのヒント」をまとめてみます。